ワークショップイベント「心の庭を歩こう」開催レポート

ワークショップイベント「心の庭を歩こう」開催レポート

2024年6月29日、私たちANONYMは初のワークショップ型イベント「心の庭を歩こう - コーヒー片手に自分と向き合うライティングワークショップ」を開催しました。会場は京都市左京区にある寺院「永運院」。新緑が眩しい庭園に面した静謐な空間で、一人ひとりが自分の内側にある「ことば」と向き合いました。

本記事では、当日の様子をレポート形式でお届けします。

オープニングと自己紹介

まず、和室でローテーブルを囲むように参加者さんたちが座り、順に自己紹介をしました。といっても、本名や肩書をいう必要はありません。「ANONYM(アノニム)」は、「匿名の人、匿名で書かれたもの」という意味の言葉で、“誰でもないわたしやあなた”でいることに価値があると考えるからです。

今回のイベント用に制作したワークブックを順にめくり、「ABOUT YOURSELF」のページにある4つの設問に答えることで、今の自分を表現しました。「一番あなたらしい季節は?」「雨の日は何をするのが好き?」「どんな環境が一番心安らぐ?」「今のあなたはどの色に近い?」というそれぞれの設問に対して、4つの選択肢からしっくりくるものを選ぶスタイルです。

正解も不正解もありません。「なぜそれを選んだか」を言葉にして他の参加者さんにシェアすることで、自分の心の中にひそんでいるものを浮き上がらせていきます。

ワーク1:五感の土を耕そう

「五感の土を耕そう」は、一杯のコーヒーを全身で味わい、五感をひらくワークです。

このイベントは「ライティングワークショップ」ですが、私たちは「書く」スキルよりも、「感じとる」スキルこそが大事だと考えます。とはいえ、自分の内側にあるものを感じとるのは簡単ではありません。多くの人は、円滑に日々の生活を送ったり、物事を効率よく進めたりするために、感覚を閉じてしまいがちだからです。

そこで、今回はマインドフルネスで使われるレーズンエクササイズ(1粒のレーズンを手に取り、観察し、匂いを嗅ぎ、重みを確かめ、口の中に入れて転がし、噛み、味わい、飲み込むというように細分化された工程を意識的に行うエクササイズ)に倣い、ANONYMのオリジナルブレンドコーヒー「DRIP DROP DIARY」を全身で味わってみました。

①目で見て観察
(カップの色や香りは? そんな手触りがしそう? コーヒーの液面はどんなふう?)

②手に取って観察
(カップは重い? 軽い? 手触りはつるつる? しっとり? 液体が揺れる感じは?)

③香りを観察
(思ったより香りが強い? 弱い? 果物や木や草など、思い出す香りはある?)

④口に入れて飲み込む感じを観察
(温度はどう? まるい感じ? とがっている感じ? 口の中で味が広がる感覚、味の変化は? のどから食道、胃へと異動する感じは?)

⑤目を閉じて聞こえる音を観察
(自分の左右、前後から何が聞こえる? 自分の内側からの音はどう?)

毎日カップに入れたコーヒーを飲んでいても、こんなふうに能動的にカップやコーヒーそのものに意識を向けることはほとんどありません。でも、あらためてじっくり観察すると、どっしりとしたカップの持ち手が意外と華奢であることや、コーヒーの表面に豆の油分がマーブル模様を描き出していること、カップとコーヒーとの境界に泡がパールネックレスのように連なっていることに気づきます。

コーヒーを口に含んだあと、すぐに飲み込むのではなく、口の中にすこし留めて、温度や味の広がりを感じ、のどの奥に降りていくのを確かめると、普段の「コーヒーを飲む」行為とはまるで別の体験のように感じられるでしょう。

それぞれが感じたことを紙に書き出したあと、シェアし合いました。こういった感覚は一人ひとり異なるので、シェアすることで、ほかの人が自分がまったく思いもよらなかった部分に気づいていると知ることができます。

「自分の口腔が(自分が知覚しているサイズより)大きく広がったような感じがした」「ゆっくりと飲み下すときに、のどから食道を通って温かさが降りていく感覚があった」「自分の感覚に注意深くなったためか、ワークの前には聞こえなかったエアコンのモーター音が、ワークのあとに聞こえるようになった」などの感想がシェアされました。

ワーク2-アイデアの種をまこう

五感の土を耕すワークの次は、「アイデアの種をまこう」のワークを行いました。

「庭」をテーマにしたショートライティングで、まずは自由に発想して、思いついたことを書き留めていきます。上手に書こうとしたり、きれいにまとめようとしたりする必要はなく、自分が感じ取ったことを素直に書き出していくのがポイントです。

「あなたが庭の一部になったら?」「庭が話しかけてきました。どんな会話になりそう?」など、発想の糸口となるいくつかのヒントが用意されているので、「いきなり文章を書けと言われても……」と困ることはありません。

このワークでは、参加者さんたちに自由に動き回ってもらい、好きな場所で書いてもらいました。縁側に出て庭を眺めながら書く人もちらほら。最初のワークで五感を耕したためか、庭を眺める目線もそれまでとはすこし変わっているのかもしれません。

この日の京都市内は昨晩までの雨と打って変わって陽光が差し、そよ風が緑の葉をゆらしていました。自分の感覚に意識的になると、普段「目には入っているけれど、ちゃんと見てはいないもの」がなんと多いことかと気づきます。

ショートライティングのあとに、一人ずつ自分がどんな発想をしたかをシェアしました。自分を石の上の落ち葉にたとえた人もいれば、猫になって庭を探検した人も、庭とおしゃべりをした人も……。目の前に広がっているのは同じ庭なのに、アイデアの種は全員違っていて、まるで一人ひとりの心の庭を巡らせてもらったような楽しさを感じました。

ワーク3-ことばの苗を育ててみよう

最後のワークでは、そこまでに取り組んだワークを材料に、「わたしの庭」をテーマとする小さなエッセイの「下書き」を作っていきます。最終的には1000字程度のエッセイに仕上げますが、ワークショップ中には「下書き」までを行いました。

ワーク1で五感の土を耕し、ワーク2でアイデアの種をまき、ワーク3でことばの苗を育てるイメージです。カチカチに乾いた地面に種を落としてもすぐには芽吹きませんが、しっかり耕してふかふかになった土の上にまき、手をかければ苗が育っていくのと同じこと。

参加者さんの中には「文章を書くことに慣れていない」「ふだんは特に創造的なことをしていない」という方もいましたが、皆さん、思い思いに鉛筆やペンを動かしていました。それには、ワークショップという「場」の力もきっと関係しているのでしょう。

「わたしの庭」の真ん中に立って、五感を研ぎ澄ませ、木々や草花の色や形を観察し、匂いを嗅ぎ、音を聞き、風を感じる……。開放的かつ安全な空間で、否定されることも評価されることもなく、のびやかに感情をアウトプットできる時間を持てたと思います。

なお、この日下書きをしたエッセイは、完成したら、任意でANONYMまで送っていただくようにしました。素敵なエッセイが届いたら、ANONYMの公式WebサイトやSNSでさせていただけるかもしれません。楽しみにお待ちください。

五感で楽しむランチタイム

2時間のワークショップのあとは、参加者同士で感想を語り合ったり、他愛ないおしゃべりをしたりしながら、ランチを楽しみました。ランチボックスは、京都のフレンチレストラン「La Part Dieu」のシェフ自らが無農薬栽培した花や野草のあしらいが華やかな折詰で、京都府内産の野菜を主役に、お惣菜が品数豊富に入っています。

このランチボックスは、コロナ禍で人気を集め、著名メディアでも取り上げられたものの、現在は単品販売されていないレアなもの。「わぁ、きれい!」「夏野菜がおいしい」「お肉がやわらかい」「おかずの下に別のおかずがあるのがいいですね」と盛り上がりました。

私たちは日々それぞれ目の前のことに忙しく、立ち止まって何かを観察したり、その対象物によって自分の心がどのように動くのかを味わったりする時間を持つのが難しいです。

しかし、誰もが自分の中にアーティストの心を持っています。その心を呼び覚ますヒントを提示されさえすれば、私たちはもっと創造的になれます。大切なのは、「書く」スキルよりも「感じとる」スキル。そのことをあらためて実感できる、刺激的で楽しいワークショップとなりました。全国から集まってくださった皆さん、ありがとうございました。

ANONYMでは、また次のイベントの開催を予定しています。公式サイトやSNSで告知をするので、このレポートを読んで「参加してみたいな」と思ったら、ぜひSNSをフォローしてお待ちください。

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