TOKIアンソロジー第5作。夜明けの訪れを表現したブレンド「06:04 dawn drop」から着想を得た30句の俳句集。春から冬へ、移ろいゆく季節のなかで出会う朝の情景を、みずみずしい言葉で描き出す。
春暁の改札単語帳睨む
紋黄蝶潜る太極拳の肘
日輪のゆつくりと出て桃の花
春の鴨水を啄みつつ流る
逃水を追ふ裏声のスガシカオ
スイートピー理事一覧に亡き人も
風車渡して海星呉れにけり
朝焼と千の街灯相搏てる
全員が九時寝五時起きジギタリス
噴水をくるつと久しぶりに逢ふ
空が日を離さぬ国のサングラス
背泳ぎに抜き平泳ぎにて抜かる
スポイトを水のぼりゆく星祭
息継ぎと息暁闇の露時雨
朝二粒食後三粒ちちろ虫
ロストバゲージ爽やかに雲仰ぐ
朝露やいちじくの葉を横滑り
露草を歩み来し靴土手に脱ぐ
長靴の中の冷たし林檎畑
少し寝てよりまた林檎捥ぎにゆく
青空の奥の林檎を摑みけり
行く秋や搭乗券の薄き青
隙間なく弁当を詰め冬の星
白樺岳樺冬始まれり
助走五歩ふくら雀に見られつつ
サンタ帽被せオリーブオイルの瓶
勝独楽の生命線になほ廻る
餅を搗きつつ胎の子に蹴られしと
音のある落葉よ風のなき落葉
膝毛布水溶くやうに夜が明けて
黒岩徳将(くろいわ・とくまさ)
1990年、兵庫県神戸市生まれ。俳人。 「いつき組」所属。今井聖主宰「街」同人。第5・6回石田波郷新人賞奨励賞。2017年度「街未来区賞」。第3回俳句大学新人賞特別賞。2023年度「街賞」。 アンソロジー『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』入集。2024年第一句集『渦』(港の人)刊行。 現代俳句協会青年部長。 X(@vortex_kuroiwa)
物語の余韻を、ご自宅で。
この作品は、TOKI herb teaのブレンド「06:04 dawn drop」の時刻からインスピレーションを得て書き下ろされました。ハーブティーを飲みながら、物語の世界観にもっと浸ってみませんか?