香りを介して、体と心に向き合う――TOKI herb teaのブレンドに寄せて(ブレンダー:宿木雪樹)

香りを介して、体と心に向き合う――TOKI herb teaのブレンドに寄せて(ブレンダー:宿木雪樹)

 

早朝から夜遅くまで、4つの時間をテーマにしたブレンドを取り揃える「TOKI herb tea」シリーズ。そのブレンダーである宿木雪樹氏より、「TOKI」シリーズに寄せるテキストをいただきました。ハーブティーという飲み物との出会いから、ブレンドに込められた想いまで。まさに彼女のブレンドするハーブティーのような、柔らかく味わい深いエッセイをお楽しみください。

 

一日一度、自分自身の体と心に向き合う時間をつくりたい。これが簡単なようで、意外と難しい。
体と心は、声に出して何か語りかけてくれるわけではない。体と心が「疲れた」「とても悲しい」と、日本語で私に話してくれるとありがたいのだけれど。
だから私の場合は、嗅覚をたよりに体と心に問いかけるようになった。

八年ほど前の話だ。

当時勤めていた会社をぱたりと退職した。責任感で体を無理やり動かしていたので、会社を辞めたら呼吸以外のすべての機能が停止してしまったようだ。カーテンが白から黒、黒から白と繰り返し変化するのを、ベッドの中から眺めていた。髪の毛がごわごわとまとわりついて、肌の匂いが濃くなっていく。

そんな私を心配した友人が贈ってくれたのが、ハーブティーだった。今までハーブティーを好んで選んでいたわけではない。ただ、「もらったものは飲まなければ」と重い体を起こし、お湯をわかしながら包みを開けた。

なにかの花の香りが、やわらかく広がった。林檎のような爽やかさと、甘酸っぱさを含んだやさしい香り。すこし黄を含んだ淡い白の、まるい輪郭が心の奥にふんわりと広がるようだった。

カモミール。その名はあとで知った。

“無”に沈んでいた心が、わずかに反応した。「その香りを、体の中に」と。心に促されるまま口に含んだカモミールティーは、体の節々の鍵をひとつずつ開けていく。止まりそうになっていた体の中の水分が、流れを取り戻そうとする。香りを味わうために、呼吸が深まる。私はその一杯を楽しむあいだ、まぎれもなく自分自身の体と心に向き合うことができた。

嗅覚は体と心に最も寄り添い、言語として機能する感覚であるように思う。視覚はあらゆる情報を受け止め、思考に対して絶え間なく働きかけている。一方の聴覚は、私にとっては誰かのためにつかう感覚だ。言葉や息遣い、街ゆく人々との距離感を知るために。味覚と触覚も体と心に近しい感覚ではあるが、食欲や性欲、生物的な危機管理につかわれることが多く、感受する情報の濃淡や優先順位は本能に従う。そのため、最もニュートラルに、心と体の状態を察する力があるのは、嗅覚だと感じている。

ハーブティーはその嗅覚をくすぐる存在として、すぐれていた。複数種のハーブが織りなす香りに向き合うと、心と体がすなおな気持ちを示してくる。「ほしい」「好き」というふうに。

日によって、体が欲する香りは異なる。嗜好の違いは単なる健康状態のみによってもたらされるものではない。体と心が重なり合った、その瞬間の私のすべてが直感で求めるものが好みにあらわれる。その真意を探る言葉の代わりとして、ハーブティーの香りは適していた。

市販のハーブティーを買いあさって飲むうちに、原料となるハーブのことを理解していった。それぞれのハーブは、香りに加えて効能、味にも特徴がある。ハーブティーは、これらの条件を見定めたうえで、すべての相性が合うよう組み合わせられている。

私は自分自身の体と心が求めるものを、より深く、解像度高く理解したいという想いから、自らブレンドしたハーブティーを飲むようになった。主要なハーブを一式取り揃え、嗅覚をたよりにそれらを組み合わせていく。効能や味に対する配慮も忘れないが、私の場合は香りを重んじる。一種、また一種と香りが重なり合い、やがて「この香りを求めていた!」と心が沸き立つ瞬間には、ほかの体験では味わえない、特別な喜びがある。

ところで、市販のハーブは乾燥した状態で売られている。では、乾燥する前のハーブは、どんな香りを放つのだろう。好奇心から庭にハーブを数種植えてみた。ハーブの葉に、一日たりとも同じ色はない太陽の光が降り注ぐ。あるいは雨が土を濡らす。気がつけば茎はたしかな力強さで無数の葉を支えている。彼らは生きていた。葉を指で撫でると、強烈な香りが語りかけてくる。

摘みとったハーブに、湯を注ぐ。フレッシュハーブティーと呼ばれる楽しみ方だ。その香りには、彼らが育つあいだに繰り返してきた空の色や時間の経過が溶けあう。口に含むと、体と心が自然の力によって満たされていく。この感動もまた、私が体と心に向き合う時間に彩りを添えた。

ハーブの名を起点に本やインターネットを開けば、それぞれの香りや味、効能のデータはすぐに得られるだろう。しかし、それは頭で理解する情報に過ぎない。自分自身の体や心と向き合うのならば、データは要らない。

香りに包まれ、他の一切の感覚を休ませ、ただ心に問いかければいい。そして自身の奥底に眠る想像力が香りに反応してうずいたならば、土から栄養を蓄え、日の光を浴びて葉が育ち、香りを生み出すまでの時の流れに、想いを馳せてみるのもいい。

ハーブと向き合う時間、体と心が何を求め、何を刻み付けたか。言葉では伝えきれない一瞬の感覚を、TOKI herb teaのブレンドに閉じ込めた。私の体と心の本音を、手に取ってくれた“あなた”に明かすような4種のハーブティーだ。

ハーブティーが、必ずしも万人の心と体に語りかけるとは限らない。しかし、“あなた”の心と体が、この一杯との出会いによってわずかにでも震えるならば、私はとても嬉しい。

 

宿木 雪樹(やどりぎ・ゆき)

1989年、北海道生まれ。2017年よりWebライターとして活動し、2020年、ライティング事業を主軸とする株式会社宿木屋設立。個人活動として小説やエッセイ執筆、ハーブティーのブレンドなどを行う。2024年、TOKI herb teaにブレンダーとして参画。

>>  株式会社宿木屋 / X(@yuki_yadorigi) / note(宿木雪樹)

 

■ TOKI herb teaの商品一覧:https://anonym.kyoto/collections/toki-herb-tea

 

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